Monday, February 23, 2009

まえがき(11)

中高一貫教育だった私の母校で3年上のプログレッシヴロックグループ、「ブレインウェーブ」はディストーションの効いたギターを全面に押し出し、スケール、和音進行、モードといった従来の音楽常識の枠にとらわれない前衛的演奏で文化祭の人気グループとなった。後に判明したところによると、リードギタリストは、スケールとか和音進行とかの音楽常識そのものを知らなかったらしい。よって、すべての演奏は既存のロック音楽のアンチテーゼとしてではなく、謂わば、「de novo」のアヴァンギャルドというべきものにならざるを得なかったという事情であった。それはともかく、そのブレインウェーブのメンバーの同級生によって結成され、三和音循環コードを究極教義とするフォークグループ「いらんことしい」のリーダーは、彼女からのプレゼントの舞台衣装である「IRANKOTOSHI」と胸に赤文字で編み込まれた白いセーターを着て、古き良きフォークソングを歌うのであった。人間のあらゆる行為は原則的に「いらんことしい」であるという当時高校生であった彼らの慧眼は注目に値する。故山本夏彦氏が言った「私のやることは全て死ぬまでの暇つぶしである」との観に通ずる。むしろ、「暇つぶし」には自己満足的な閉鎖感があるが、「いらんことしい」には、自ずからの枠を越えて、社会に働きかけようとする積極性のようなものが感じ取られるという点で、よりスケールが大きいとも言えよう。

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